2003年に設立された奇鼎科技は、世界で唯一の温度制御技術と分子状汚染物質(AMC)除去技術を有し、半導体製造における精密プロセスの環境制御や省エネエンジニアリングサービスを提供している。優れた研究開発能力を持つ同社は、台湾エクセレンス賞や経済部中小企業創新研究賞など、計33の賞を受賞しているだけでなく、世界トップ10の半導体メーカーや封止・検査メーカーからも高く評価されている。その顧客は台湾、中国、米国、ドイツ、スイス、日本、韓国、シンガポールなど広範囲にわたっている。
「我々は精密温度制御の分野で業界をリードしてきた。他の多くの分野でも、世界トップクラスの技術力を誇っている。ただし、技術をさらに向上させるには外部の力が必要だと感じた」と語るのは、奇鼎科技の蘇柏樺会長付特別補佐兼代理スポークスマンだ。同社は現在、主に半導体大手メーカーや封止・検査メーカー向けのアライナーやコーターの精密温度制御設備を提供している。半導体チップの小型化が進む中で、同社の製品に対する需要は今後ますます増加すると予想されている。
より優れた研究開発技術を追求し、AI導入を決定
「プロセスが精密になればなるほど、温度制御の重要性が増してくる」と蘇会長付特別補佐は説明する。たとえば、髪の毛の直径は約5万ナノメートルであるのに対し、台湾積体電路製造(TSMC)が現在生産しているウエハーはわずか3ナノメートルだ。このウエハーの製造工程で、わずかな温度や湿度の変化が発生しただけでも、ウエハーが膨張または縮小し、歩留まり率に悪影響を及ぼす可能性がある。
また、同社の顧客である半導体メーカーや封止・検査メーカーは世界的に知られた企業が多く、その要求水準も非常に高い。奇鼎科技はこれまで研究開発技術の課題を克服し、革新を追求し続けてきた。「我々の競合は外国メーカー、特に日本企業だ」と蘇会長付特別補佐は話す。奇鼎科技は、台湾初で唯一の精密温度制御設備の国産化を実現した企業として、3年前からAIを活用してさらなる技術向上を図る必要性を模索し始めたという。
「当時、AIに詳しい社員は社内に一人もいなかった」と、未知の分野に直面した当時を振り返る蘇会長付特別補佐。まず自らChatGPTを使用して法律問題を解決し、その後同僚と協力して業務の課題をAIで解決していった。結果として、従業員の作業効率が大幅に向上したことに気づき、AIを研究開発技術の改善に活用できる可能性を評価し始めた。
停滞したプロジェクトを7日で完成、Profet AIとの提携で研究開発効率が大幅向上
2023年10月、奇鼎科技はAIプラットフォームを提供する複数の企業を調査した結果、Profet AI のAutoMLプラットフォームを導入することを決定した。このプラットフォームにより、研究開発の時間短縮と、これまで見落としていた研究開発の方向性を発見できると期待していた。
以前、同社の研究開発チームが取り組んでいた2年計画のプロジェクトでは、設備温度の制御幅を±0.01℃から±0.001℃に縮める目標があった。しかし、このプロジェクトは1年以上進展せず、課題が山積していた。
その後、すべてのパラメーターをProfet AIのプラットフォームで分析したところ、重要でないパラメーターがいくつかあることが判明。重要な因子を特定し、AIモデルを活用したシミュレーションを行った結果、1週間以内に目標達成が可能になり、研究開発チームの実験効率が大幅に向上した。
ワークショップでAI応用を促進、人材訓練時間を短縮
Profet AIのプラットフォームは、使いやすさと豊富な実績が評価されている。同社の顧客の多くは奇鼎科技の顧客とも重なり、半導体産業の課題やニーズを深く理解している点が選定の決め手となった。
導入初期、奇鼎科技はProfet AIと協力してワークショップを開催。従業員はデータ整理からAIプラットフォームでの活用方法、適切なモデルの構築まで指導を受けた。非エンジニア職の社員も参加し、終了時には全員がプラットフォームを習得する成果を上げた。
今後、奇鼎科技はベテラン社員の経験をデジタル化し、新人の訓練時間短縮を目指していく。AIを活用して効率的な知識伝達を進める計画だ。
重要情報の流出防止とAI活用の両立
奇鼎科技は、特許技術の情報流出への懸念から、Profet AIのプラットフォームを社内サーバー上で運用することで安全性を確保。この結果、研究開発効率が大幅に向上し、世界的競争力の差別化を加速している。
奇鼎科技はこれからも、AIを活用しながら半導体産業における研究開発と技術革新の最前線を走り続けることを目指している。