亜炬企業(Asia Giant)は30年以上の製造とメンテナンスの経験を持ち、台湾で名を知られている従来型の機械設備メーカーで、台湾化学工業産業の上場メーカーを主要顧客とする。近年、新たな従業員の確保が難しく、ベテラン従業員が相次いで定年を迎えるという二重の圧力の下、積極的にスマート製造を推進している。同社はAIでベテラン技術者の経験をデータ化して、設備をより優れたものとするのと同時に、メンテナンス業務の売上高も大幅に増加させた。さらに、スマートモニタリングサービスを設備に導入して、従来型の化学工業産業においてAI応用をリードする存在となった。
亜炬企業のAI応用推進の重要な担い手となったのは、同社の許弘翰最高執行責任者(COO)だ。2020年に二代目として経営を引き継いでまもなく、ベテラン技術者の多数が定年を迎えるという難題に直面した。「かつてのベテラン技術者は積み重ねた経験を通じて、『聞く』または『感覚』で設備の問題点や部品の故障を判断しており、拠り所となるデータは一切なかった」と許COOは語る。ベテラン技術者の経験は量化や口述で残すことが不可能であると気づき、許COOはいかにAI導入によって経験と技術をデータ化し、伝承するかを考え始めたという。
プログラミングの知識は不要 簡単にAI応用をマスター
AIプラットフォームの導入を決定後、許COOは市場の関連するソリューションを調査し始めた。そして選んだのが、すばやく設置し、簡単にマスターできる杰倫智能科技(Profet AI)のAutoML(自動機械学習)プラットフォームだった。
「別途プログラミングを学ぶ必要がなかったのが最大の魅力だった」許COOはこう率直に話す。Profet AIの製品はプログラミングの知識は不要で、ExcelファイルのデータをAutoMLプラットフォームに入力するだけで、問題の重要因子を見つけ出すことが可能だ。これは従来型産業にとって非常に助けとなる。多くの時間を費やして新たに学習する必要なく、求める答えが短時間で手に入るからだ。
また、Profet AIの熱心なコンサルタントがAIの基礎概念をシェアし、問題の背後にある分析可能なデータの棚卸しを行って、データからモデルを構築した後、改善や最適化の方向を見つけ出せるようサポートした。さらにコンサルタントは、いかに従来型の機械設備とAI及びIoTを統合して、信頼度と効率を高めるかをシェアし、亜炬企業はより短期間でAI導入を実現することができた。同社は現在もProfet AIのコンサルタントと次なるAI応用の方向性について討論を続けている。
Profet AI のAutoML導入 メンテナンス業務の売上高が30%アップ
設備の研究開発と生産、販売を主要業務とする亜炬企業だが、AI応用は設備のメンテナンス業務から着手することにした。
まず、設備にセンサーを設置して、収集したデータと連続データからProfet AIのプラットフォームがモデルを構築し、データの周波数に大きな起伏、または突然の高低など異常が発生していないか判定する。その後、ベテラン技術者に設備の問題点や部品の故障を判断してもらう。以後、同様の異常な周波数が確認された時、AIは自動的に学習して事前警告を行うことができる。例えば、データの周波数が突然低くなった場合、ベアリングがまもなく損壊することを示している可能性があるので、事前に設備の稼働を停止してメンテナンスや部品交換を行うことが可能だ。実際に設備が壊れてしまってからメンテナンスすると、化学原材料の消耗や廃棄物の処理で数百万から数千万米ドルのコストがかかってしまう恐れがある。
許COOは「人に頼るのは受け身だ」と言う。設備が壊れてしまってから作業員による点検や修理、緊急処理を行うと、臨時の労働力調整によってマンパワーが不足してしまうだけでなく、損失した原材料や故障した部品の調達と交換にも時間がかかるため、すぐに稼働を再開することは不可能だ。設備と生産ラインの稼働を回復するために、マンパワーと時間を浪費することとなる。
Profet AIのプラットフォーム導入後、亜炬企業のメンテナンス業務の効率とサービス品質は大幅に向上した。顧客に対して事前に警告し、翌月のある期間に作業を停止するように依頼して、損壊の可能性のある部品の交換またはメンテナンスを行うことができる。これによってマンパワーを有効に配置できるだけでなく、部品をあらかじめ準備することもでき、顧客も化学原材料を無駄にすることを避けられる。許COOは、AI導入後の1年でメンテナンス人員の作業効率は50%向上、売上高は30%増加したと見積もる。
AIスマートモニタリングシステムを設備に統合 受注が4割成長
メンテナンス業務でAI導入の効果を確認した後、亜炬企業はスマートモニタリングシステムとその他設備の統合を開始し、2022年5月の「高雄自動化工業展/高雄国際儀器化工展」で、初めてProfet AIのシステムを搭載した「スマート昇降式撹拌装置」をリリースした。
許COOは、この革新的な設備はコアパーツを通じて構築したセンサー搭載のスマートモニタリングシステムで、撹拌過程のデータをリアルタイムで確認し、部品の摩耗を追跡できると説明する。異常な数値を発見すると事前警告を発し、亜炬企業が顧客に合わせたメンテナンスサービスをただちに提供する。これによって、顧客は突発的な故障発生にかかるマンパワーと時間を大幅に節約して、生産効率を高めることが可能となる。
この「スマート昇降式撹拌装置」はその後、化学産業におけるAI応用の扉を開くこととなった。長期にわたって取引のある顧客から、古い設備にスマートモニタリングシステムを搭載できないかと問い合わせを受けたほか、多くの製薬メーカーがリモートで設備内の化学品の温度や圧力、揮発性有機化合物(VOC)の漏洩など異常を確認するためにこのシステムを設備に搭載したいと興味を示すようになった。統計によれば、2023年の亜炬企業のAIスマートモニタリングシステム搭載設備の受注は前年比4割成長した。
より多くの設備を優れたものとし、設備とAIソフトウエア及びハードウエアの統合を加速させるため、亜炬企業は応用サービス部門を設立した。許COOは、今後より多くのAI人材を採用して、台湾化学工業におけるAI応用の総合プラットフォームとなり、顧客にAI応用とソリューションを提供するゲートキーパーとして、従来型メーカーのスマート製造参入をサポートしていきたいと語った。